シスト

2018年04月05日

【読了】「シスト」初瀬礼

初瀬礼さん「シスト」。
じっくり楽しむつもりだったのに、一晩で読み終えてしまいました。

「まさか自分の身近で起こるはずはない」という気持ちこそが、パンデミックを引き起こしてしまう恐怖。展開から目が離せず、気がつけば真夜中でした。

未だ続く紛争やテロ、若年性アルツハイマーという病気、既存マスメデイアの報道姿勢、インターネット上で不確定情報が瞬く間に広がるさま…
今の時代に起こりうる危機が冷静に描かれていて、その表現の温度の低さゆえに、すぐとなりにひやりとした闇が控えている感覚が妙にリアル。読んでいる間ずっと緊張していたような気がします。

私は普段、個々のキャラクターの内面性を掘り下げていくタイプの小説を好んで読んでいて、外で起きる出来事が主体で、そこに関わるキャラクターたち、という構図の作品は久しぶりでした。
出来事が作品の真ん中に置かれるから、必然的にキャラクターの登場量や描写が少なめになるよね、と読んでいる間は思ったのですが、本を閉じてからしばらくしても、それぞれどういう人間だったのかがイメージに残っていたことには驚きました。
良い悪いではくくれない、人それぞれの生々しい欲望と生き方。

中でもやはり、主人公であるフリーの女性ジャーナリストの像はくっきりとしていて、自ずと心が寄り添います。
渦に巻き込まれた彼女が、信じた方向に顔を上げて進んでいくさまは潔く、過度にヒロイン的デコレーションが成されていなくてとても良かった。

最後はちょっと駆け足で進み、「これから大変な騒ぎになってキツいんじゃないかな…」と、主人公楽観的な見通しに不安も感じましたが、でも彼女なら案外すっと乗り越えていくのかもしれません。

シスト
初瀬 礼
新潮社
2016-10-07



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akikoyanagawa at 21:51|PermalinkComments(0)