その他舞台

2022年05月19日

俳優を引き立てる、「木版画的」舞台装置

期待通りの面白さ。
『ブック・オブ・ダスト』映画館で観てきました。
イギリス舞台を映像で見られる、ナショナルシアターライブの一作品。

映画化もされた小説『ライラの冒険』の前日談を舞台化したもの。
まだ生まれたばかりのライラを守るべく、12歳の少年マルコムと、16歳のアリスが奮闘します。
脚本のテンポが良く、時に笑いを誘いながらも、女性の生きにくい環境についてのやりとり、善のために人を殺めて良いのだろうか…という問いもあり。
互いに歪み合う少年少女が少しずつお互いを認め合うようになる過程も自然で、微笑ましく眺めていました。



視点が舞台上のキャラクターに近づいたり、俯瞰的に見る位置まで遠のいたりする体験に、ワクワクしっぱなしでした。

そして、特筆すべきは舞台装置!
ほとんど物理的な装置はなく、プロジェクションマッピングなのですが、固定の映像ではなくアニメーションになっていて、物語の世界を見事に表現しているのです。
特に「洪水」の水には息を飲みました。

あえてリアルにはせず、木版画のような荒涼とした風合いを使うことで、俳優に目がいくよう「退いた」表現に徹した、と演出家。
確かに色合い鮮やかに、リアルに描き過ぎてしまうと、そちらに目が行ってしまうかもしれない。このバランス感が絶妙でした。

客席はコの字型に舞台を囲んでいて、舞台との視点の高さもほぼ同じ。
これは劇場で見たら、楽しいだろうなあと、客席のみなさんが羨ましく感じました。

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今年のラインナップも発表になっています。
全部見にいくぞー。



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今回のブックオブダストの原作はこちら。

ブック・オブ・ダストI 美しき野生(上) (新潮文庫)
フィリップ・プルマン
新潮社
2021-05-28




原書。





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『ライラの冒険』二度映像化されているとのこと。

2007年映画版と、


2019年からのBBC放送ドラマ版。
2020年にはシリーズ2も。リンさん(リン=マニュエル・ミランダ)出てたんですね!


「黄金の羅針盤」は原作こちら。

ダーク・マテリアルズI 黄金の羅針盤(上) (新潮文庫)
フィリップ・プルマン
新潮社
2021-03-27



原書。

The Golden Compass Graphic Novel, Complete Edition (His Dark Materials)
Pullman, Philip
Knopf Books for Young Readers
2017-09-05



akikoyanagawa at 22:47|PermalinkComments(0)

2021年11月17日

『tick, tick...BOOM!』NETFLIX@ヒューマントラストシネマ有楽町

『RENT』好きには刺さるシーンだらけ!

作者ジョナサン・ラーソンの自伝的ミュージカル、『tick, tick...BOOM!』観てきました。



30/90は長尺で動画上げてくれてますね!


30歳を目の前に、ウェイターのバイトをしながら、ミュージカル作品を生み出そうと創作活動を続けてきたジョナサン。
業界有力者も呼んだワークショップで作品を披露するチャンスが訪れ、焦りながらも奮闘する彼と、取り巻く友人たち。

『tick, tick...BOOM!』自体もミュージカルなので、いろいろな曲が使われているのですが、これがまたね、それぞれ体を満たす豊かな曲ばかりで。
映画館の音響で、この作品を観られてよかった…と心から思いました。

友人たち、つぶやく言葉、書き溜めた歌詞のアイディア、そして流れるメロディ。すべてに『RENT』の源流を感じることができて、『RENT』に触れたことのある人はにやりとすること間違いなし。

また、彼を支援していたスティーブン・ソンドハイムの生声テープが聞けたり、ところどころ「えっこの人、あの作品のオリジナルキャストよね?!」などなどなど、著名俳優さんが登場するのも見どころの一つ。

監督は、ハミルトンで一躍有名になった、リン=マニュエル・ミランダ。
作品のカメラワークは正直ちょい物足りないものの、ああリンさんは、ジョナサンラーソンと彼の作品を愛しているんだなあ、と感じさせる描き方でした。

インタビュー動画がこちら。


東京だと今なら、渋谷や池袋、吉祥寺で観られます。


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ジョナサンの音楽で満たされたい人は映画館おすすめ。
ネットフリックスでもこの後配信予定です。

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アンドリュー・ガーフィールドがジョナサンラーソン役。
迷ったり嬉しかったり、の表情がすこーんと素直に顔に出る、魅力的なジョン。彼の歌も好きだなあ。
エンジェルス・イン・アメリカの主役が見事で、それ以来気になっている俳優さんなので嬉しい。


親友マイケル役のロビン・デ・ヘススの優しい目の表情が素敵。
そして、リンさんもまさかのところで登場します。映画館で笑いが起きていました(笑)。

早速サントラを聞いていますが(Youtube Musicありがとう)、劇中劇『Superbia』のナンバーは入っていず悲しい。
あれ、よかったのにな。探そう。

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(ご参考まで)
RENTの映画版、最初の10分。


akikoyanagawa at 00:40|PermalinkComments(0)

2020年08月10日

NTLive『スカイライト』

2014年の舞台『スカイライト』を、映画館で観てきました。
観られて良かった作品リストに、迷いなく追加です。






池袋のシネ・リーブル、半分の座席のみの販売ではありましたが、満席!
前評判も高かったので、観たいと思っていた方は多かったのですね。

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登場するのは3人の俳優、場所はアパートの一室のみ。
組み合わせを変えて2人ごとのやり取りで進む作品ながら、そこに過去の時間と、通り過ぎた人たちの思い、価値観のバトルが目まぐるしく浮かび上がります。

レストラン経営者として成功しているトムは、自分の元を去った不倫相手を訪ねる。
3年前まで彼女キーラは、トムと妻、子どもたちと一緒に住み、「家族のように」楽しく過ごしていたという。
ある日関係がバレてしまい、キーラは何も言わず家を出た。

妻はその後病気で亡くなり、2年が経つ。あわよくば関係を取り戻せないかと思っての、トムの来訪。

キーラが住むアパートは裏寒く質素、仕事は恵まれない家庭の集まる地域で、教師をしているという。
優秀な成績で大学を卒業し、自分のレストランでの働きぶりを知っていたトムは、ショックを受ける。
不倫相手という立場ながら、裕福な家に住み、幸せそうに過ごしていた彼女を、身近で長く見ていたのだ。
一緒に暮らしていた頃とは、あまりにも違う環境をなぜ彼女は選んだのか。

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ジョークをはさみながら恐る恐る近づこうとするトムと、続きを読む

akikoyanagawa at 18:54|PermalinkComments(0)

2020年08月01日

NTLive『橋からの眺め』

イギリス舞台を映画館で、のナショナル・シアター・ライブというプロジェクト。
もう長く続いているので、シェークスピア中心に、著名な作品を、斬新な演出やキャスティングで上演した舞台が揃っています。
ベネディクト・カンバーバッチのハムレット、イアン・マッケランのリア王、ジュディ・デンチの冬物語…

そもそも現地で人気すぎてチケットが取れない、または一時的な特別キャスティングのため、観ることが難しいものが、こうしてしっかりしたカメラワークで残っていて、映画館で楽しめること自体、ありがたいなあと数年前から通っています。

しばらくYoutubeでの週イチ無料配信をしていましたが、映画館での上映が増えてきました。
いまは、過去の作品を少しずつ観られる、毎年恒例の8月スペシャル期間中。
今日は『橋からの眺め』観てきました。池袋のシネ・リーブルにて。
(ひと席置きの配置のうち、半分以上はお客さん入っていたなあ…!人気。)

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アーサー・ミラーが1955年に書いた作品。
出身地イタリアから移住した夫婦が、同じくイタリアからやってきた親戚の移民を匿うことに。
夫婦は17歳になる姪を育てているが、やってきた移民の青年と惹かれ合い、娘のように思っている夫は理由のない怒りを覚えるようになる…。




年頃の「娘」的女性と、自分を父親と自覚するエディの、家族内で起こる普遍的なテーマと、立場が危うい移民の緊張したやりとり。
とことん、自分の「娘の彼氏への嫉妬」や「嫌悪感」に従順なエディは、一歩間違うと観客を敵に回すことになるけれど、マーク・ストロングという俳優さん演じるエディは、「うん…わかるよ、そりゃそう思うだろうね…」という、親近感も引き寄せてしまうんですよね。

怒りに燃える視線や、娘の反発に悲しむ眉毛の表情ひとつで、観る人の気持ちは翻弄されます。
映像かつ録画であっても、舞台に渦巻く感情のながれが目に見えるのは、俳優と制作陣の力あるからこそ。
毎回観終えるとき同様、今回も驚きと満足のため息をつき、席を立ったのでした。

マーク・ストロングさんのインタビュー。


来週はスカイライトを。
これも観た人が興奮して感想を語る作品。気になっていたので、楽しみです。

akikoyanagawa at 21:53|PermalinkComments(0)

2020年07月12日

三谷幸喜作品、配信で初観劇!『大地』

きのう、三谷幸喜さんの『大地』、PARCO劇場公演のライブ配信を観まして、これは出会えてよかった舞台だなあ、ととても満足。
彼の作品は一度観てみたかったものの、今まで人気でチケットは買いづらかったし、正直「大ファンな方々が集まっていて、観たことのない私が行っても居心地が悪いかも…?」と躊躇していたところもあったので、配信での観劇というシチュエーションは、初めて観る私にとってはちょうど良かった。

eplusのストリーミングでチケットを買って観ましたよ。




大泉洋さんと山本耕史さんの好演、竜星涼さんの見た目と内面のギャップの面白さ。
そして、環境が許さない中で「俳優はどう有り続けるべきか」を、どたばたな笑いの中で無理なくメッセージとして打ち出していて。
そして、「ショーを上演する」のではなく、「舞台作品を生み出す」ということに正面から向き合っていることが感じられて、だから彼の作品は人気なんだな…と、すぐに理解しました。

今の時期にこの芝居を観られてよかった。
劇場に出向いて観ることが自然になったら、ぜひ足を運んでみたいと思います。



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ここからは、この演目の「ライブ配信」という形態の話。
作品自体にはとても満足したのですが、はたしてこれがライブ配信である必要があったのかな、という点は、疑問に思いました。

正直、ライブ感は感じられなかったのです。
DVDやテレビ放送で流れるビデオと言われても、違和感を感じないなあって。

カメラワークもストレス無く、むしろ逆に技術的な質が高いからこそ、録画を観ているような感じがして、「これは今まさに行われている公演」という証拠はなかなか見つけられなかった。

ちょっとしたセリフのトチリや、うっかり笑いを必死に我慢している俳優さんの様子を見て初めて、あっそうだ、これライブ配信なんだった!と、時々思い出していました。

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対して最近観た、
Zoomを使った双方向演劇『ミルキィポール殺人事件』や、
TOKYO JAZZ FESの2日間配信(演奏は録画だけれど、スタジオで生でMC2人が繋いでいた)、
いつも観ているゲーム実況のライブ配信、
アルカラさんのスタジオ生配信ライブはその逆で、

カメラワークにミスがあったり、やりとりでもたもたしたりというのがあって、これがDVDなどで売られていたら「えー?」と疑問に感じるのだけれど、続きを読む

akikoyanagawa at 22:30|PermalinkComments(0)

2019年10月13日

劇団東京ミルクホール『レッツゴーギャング』@下北沢小劇場B1

心底バカバカしい展開ながらもカッコ良く、油断してただただ爆笑していたら、

後半には怒涛の伏線回収(あのセリフはそういうこと?!そして役名にも理由があった!)、

黒幕の真意が見え隠れして暴ききれないまま終わるかと思いきや、

最後、想像のはるか上の展開で、観客を現実に引き戻す。
 
最後の展開を処理できないまま劇場を出てから、

そうか、そういうことなら、大爆笑しながらも、ちょっと違和感を感じたあのセリフは、そしてあの歌の歌詞は、


あっ、えっ、
うわーつまりそういう意味?!



と、前半のいろんなシーンの意味が一転になったりもして、ぞっとするところまでが、この劇団の芝居の面白さ。

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毎回期待を裏切らない。
劇団東京ミルクホールの本公演、レッツゴーギャングを観てきました。

昭和7年の日本。続きを読む

akikoyanagawa at 22:00|PermalinkComments(0)

2019年04月20日

NTLive『リア王』イアン・マッケラン

イアン・マッケランの『リア王』舞台を映画館で。
「ナショナル・シアター・ライブ」NTLive。

大物俳優が体当りで作り出す世界の壮大さ、スクリーン越しですら凄い迫力でした。



偉大で愚か、王が老い、自らの判断が原因で追い詰められてゆくさまに心痛みます。
実際の年齢が近いイアン・マッケランが演じるからこその臨場感。上映が終わり、続きを読む

akikoyanagawa at 22:30|PermalinkComments(0)

2019年03月03日

NTLive『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』

ずうっと、誰かの言動にハラハラ、いらいら、そわそわさせられ続け、
そして最後に明かされる、違和感の根源。
訪れる朝、窓から差し込む光の圧倒的な美しさ。

観た人の感想に迫力があったので、迷っていたけれど行ってきました。
『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』
Who’s afraid of virgunia woolf?



【ナショナル・シアター・ライブ「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」】


映画館で舞台作品映像を観る「ナショナル・シアター・ライブ」NTLive。
休憩2回、3時間の舞台まるごとを映画館で。

3時間観たからこそ、クライマックスで心が震えました。
これは、たしかに、凄い芝居です。

大学学長の娘である妻に言わせれば、「負け犬」の夫は歴史学科の助教授。
悪態を付き合う壮年夫婦の家に、続きを読む

akikoyanagawa at 21:30|PermalinkComments(0)