映画

2022年06月05日

映画『東京オリンピック2020 SIDE:A』

自分と向き合い、高みを目指すランナーだけが、おそらく聴いているであろう自分の足音。
勝敗の瞬間、ふと溢れるため息、自分を律するように道着を直す、かすかな音。

大事な一打を待つ、ベンチのチームメイトの祈るような瞳と仕草。
客席を見上げ、コーチの励ます声をすがるような目で聞く陸上選手。
選手を退き、自宅からチームメイトの試合を見守る元選手。

そう、こういう距離の近い視点が観たかった、と、満足して映画館を後にしました。
『東京オリンピック2020 SIDE:A』。

特に選手の発する「音」のみを取り出して演出が印象的で、どう録音したんだろう…とその秘密が知りたくなりました。無観客だったからというのもうまく作用していそうですね。
陸上選手の息遣いとか、バスケットボールが跳ねる音だけが聞こえる瞬間は、こちらも息を呑んでしまいました。

おそらくその現場にいる人たちだけが見聞きしているであろう試合の様子が淡々と描かれています。
河瀬直美さんという視点が切り取った、オリンピックの景色の一部が見られる2時間でした。



難民として他国の旗のもと出場した選手や、延期の間に出産し母乳をあげつつ試合に出た選手、誹謗中傷をうけながらも堂々とフィールドに立つ選手。

割合としては、日本の選手が少し多め、海外の選手が大半だったのですが、印象的だったのは、人生において、オリンピックに出場することをどう位置づけるかという考え方の違いでした。

「金メダルをとるよりも、価値のあることが人生にはたくさんある」

「大事なのは、どの競技を選ぶかではなく、スポーツで高みを目指すことに、本人が価値を感じているか、楽しめているかということ」

複数の海外の選手から聞かれた言葉です。
自分の人生を豊かにするために、ツールとしてスポーツを選んでいるという考え方は、日本の選手にはあまりないない考え方のような気がしました。

柔道の大野選手が、金メダル確定後に元選手の野村さんにこぼした「怖かった」という一言や、ソフトボールの新星・後藤選手の「ソフトボール界を盛り上げていきたい」という言葉…これ、こういった海外の選手からはおそらく聞かれないものなんじゃないかなと、その差を考えてしまいました。

国やその競技のコミュニティを背負うとか、世話になった人のためとか、そういう気負いがなくなれば、シンプルに集中して自分の練習に打ち込めるんじゃないだろうか…。
類まれなる才能を持つ選手たちが、もっと自由にいろいろな活動ができたら良いなあと、そんな感想を持ちました。

紹介されていた選手たちはそれぞれに魅力的で、さっそく彼らのSNSアカウントなどを調べ、フォロー。
また、音を担当したという音響さんも見つけたのでフォロー。
オリンピックをきっかけに、競技や選手をたくさん知ることができ、楽しみが増え続けています。

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音担当された方!!!




バスケのキム選手、映画祭行ったんですね〜!


<Twitter>
柔道 Saeid Mollaei @iammollaei
バスケ Kim Smith Gaucher @8kimsmith
マラソン Aliphine Tuliamuk @mamaZoeCherotch
陸上 Gabby Thomas @itsgabriellet

akikoyanagawa at 10:41|PermalinkComments(0)

2022年05月19日

俳優を引き立てる、「木版画的」舞台装置

期待通りの面白さ。
『ブック・オブ・ダスト』映画館で観てきました。
イギリス舞台を映像で見られる、ナショナルシアターライブの一作品。

映画化もされた小説『ライラの冒険』の前日談を舞台化したもの。
まだ生まれたばかりのライラを守るべく、12歳の少年マルコムと、16歳のアリスが奮闘します。
脚本のテンポが良く、時に笑いを誘いながらも、女性の生きにくい環境についてのやりとり、善のために人を殺めて良いのだろうか…という問いもあり。
互いに歪み合う少年少女が少しずつお互いを認め合うようになる過程も自然で、微笑ましく眺めていました。



視点が舞台上のキャラクターに近づいたり、俯瞰的に見る位置まで遠のいたりする体験に、ワクワクしっぱなしでした。

そして、特筆すべきは舞台装置!
ほとんど物理的な装置はなく、プロジェクションマッピングなのですが、固定の映像ではなくアニメーションになっていて、物語の世界を見事に表現しているのです。
特に「洪水」の水には息を飲みました。

あえてリアルにはせず、木版画のような荒涼とした風合いを使うことで、俳優に目がいくよう「退いた」表現に徹した、と演出家。
確かに色合い鮮やかに、リアルに描き過ぎてしまうと、そちらに目が行ってしまうかもしれない。このバランス感が絶妙でした。

客席はコの字型に舞台を囲んでいて、舞台との視点の高さもほぼ同じ。
これは劇場で見たら、楽しいだろうなあと、客席のみなさんが羨ましく感じました。

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今年のラインナップも発表になっています。
全部見にいくぞー。



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今回のブックオブダストの原作はこちら。

ブック・オブ・ダストI 美しき野生(上) (新潮文庫)
フィリップ・プルマン
新潮社
2021-05-28




原書。





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『ライラの冒険』二度映像化されているとのこと。

2007年映画版と、


2019年からのBBC放送ドラマ版。
2020年にはシリーズ2も。リンさん(リン=マニュエル・ミランダ)出てたんですね!


「黄金の羅針盤」は原作こちら。

ダーク・マテリアルズI 黄金の羅針盤(上) (新潮文庫)
フィリップ・プルマン
新潮社
2021-03-27



原書。

The Golden Compass Graphic Novel, Complete Edition (His Dark Materials)
Pullman, Philip
Knopf Books for Young Readers
2017-09-05



akikoyanagawa at 22:47|PermalinkComments(0)

2022年02月27日

『ナイル殺人事件』ケネス・ブラナー

シンメトリーを意識した画の美しさに始終はっとしてばかりでした。
ケネス・ブラナー監督の『ナイル殺人事件(Death on the Nile )』。
総指揮に、リドリー・スコットもいるんですね。



ざらりとした砂漠と、ナイル川を進む豪華客船カルナック号のちぐはぐなピカピカ感が妙に魅力的。
ポアロ役のケネス・ブラナーや、舞台経歴長い俳優の演技をじっくり見せる、長回しが多用されているのもとても好きでした。
転じて最後、犯人を追い詰めていくスピード感を、この前半があったからこそ際立たせていたように思います。

船は実際に作ったんですね…!


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TOHO日比谷のラグジュアリーシートだったので前に覆いがあり、視界全部スクリーンになるので、没入感も凄かった。



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前回、同じくラグジュアリーシートで観た時にこの没入感にハマり、続編である今回の『ナイル川殺人事件』も絶対同じ条件で見ようと思っていました。大正解。



アガサクリスティの原作にはないエピソードや、登場しないキャラクターを挟んでいたり、ポアロの「弱さ」「過去」に光を当てる描き方に、違和感を感じる原作ファンも多いかも?
テレビシリーズでポワロを演じたデヴィット・スーシェの、続きを読む

akikoyanagawa at 17:10|PermalinkComments(0)

2022年02月12日

『THE RESCUE』奇跡を起こした者たち

2018年、タイで洞窟が水没し、”冒険”と称してもぐりこんだ10代の男の子たち13人が、引き返せなくなった事故。
その救出までのドキュメンタリー映画を観てきました。The Rescue。



好きでインスタをフォローしている、ナショナルジオグラフィックのカメラマンさんJimmy Chin氏が監督のひとりとして参加していて、興味を持ちました。

【Jimmchin:instagram】

当時日本でも、連日報道があったと記憶していますが、その仔細な様子が、実際の当時映像と当事者のインタビューを交え、巧みに構成された2時間。
ほんとにギリギリの賭けが運良く周ったこと、そして心の底から助けなくては…!という関係者の努力の積み重ねが、結果を産んだのだと思い知らされました。

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何より驚いたのは、続きを読む

akikoyanagawa at 18:44|PermalinkComments(0)

2020年08月10日

NTLive『スカイライト』

2014年の舞台『スカイライト』を、映画館で観てきました。
観られて良かった作品リストに、迷いなく追加です。






池袋のシネ・リーブル、半分の座席のみの販売ではありましたが、満席!
前評判も高かったので、観たいと思っていた方は多かったのですね。

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登場するのは3人の俳優、場所はアパートの一室のみ。
組み合わせを変えて2人ごとのやり取りで進む作品ながら、そこに過去の時間と、通り過ぎた人たちの思い、価値観のバトルが目まぐるしく浮かび上がります。

レストラン経営者として成功しているトムは、自分の元を去った不倫相手を訪ねる。
3年前まで彼女キーラは、トムと妻、子どもたちと一緒に住み、「家族のように」楽しく過ごしていたという。
ある日関係がバレてしまい、キーラは何も言わず家を出た。

妻はその後病気で亡くなり、2年が経つ。あわよくば関係を取り戻せないかと思っての、トムの来訪。

キーラが住むアパートは裏寒く質素、仕事は恵まれない家庭の集まる地域で、教師をしているという。
優秀な成績で大学を卒業し、自分のレストランでの働きぶりを知っていたトムは、ショックを受ける。
不倫相手という立場ながら、裕福な家に住み、幸せそうに過ごしていた彼女を、身近で長く見ていたのだ。
一緒に暮らしていた頃とは、あまりにも違う環境をなぜ彼女は選んだのか。

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ジョークをはさみながら恐る恐る近づこうとするトムと、続きを読む

akikoyanagawa at 18:54|PermalinkComments(0)

2020年08月01日

NTLive『橋からの眺め』

イギリス舞台を映画館で、のナショナル・シアター・ライブというプロジェクト。
もう長く続いているので、シェークスピア中心に、著名な作品を、斬新な演出やキャスティングで上演した舞台が揃っています。
ベネディクト・カンバーバッチのハムレット、イアン・マッケランのリア王、ジュディ・デンチの冬物語…

そもそも現地で人気すぎてチケットが取れない、または一時的な特別キャスティングのため、観ることが難しいものが、こうしてしっかりしたカメラワークで残っていて、映画館で楽しめること自体、ありがたいなあと数年前から通っています。

しばらくYoutubeでの週イチ無料配信をしていましたが、映画館での上映が増えてきました。
いまは、過去の作品を少しずつ観られる、毎年恒例の8月スペシャル期間中。
今日は『橋からの眺め』観てきました。池袋のシネ・リーブルにて。
(ひと席置きの配置のうち、半分以上はお客さん入っていたなあ…!人気。)

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アーサー・ミラーが1955年に書いた作品。
出身地イタリアから移住した夫婦が、同じくイタリアからやってきた親戚の移民を匿うことに。
夫婦は17歳になる姪を育てているが、やってきた移民の青年と惹かれ合い、娘のように思っている夫は理由のない怒りを覚えるようになる…。




年頃の「娘」的女性と、自分を父親と自覚するエディの、家族内で起こる普遍的なテーマと、立場が危うい移民の緊張したやりとり。
とことん、自分の「娘の彼氏への嫉妬」や「嫌悪感」に従順なエディは、一歩間違うと観客を敵に回すことになるけれど、マーク・ストロングという俳優さん演じるエディは、「うん…わかるよ、そりゃそう思うだろうね…」という、親近感も引き寄せてしまうんですよね。

怒りに燃える視線や、娘の反発に悲しむ眉毛の表情ひとつで、観る人の気持ちは翻弄されます。
映像かつ録画であっても、舞台に渦巻く感情のながれが目に見えるのは、俳優と制作陣の力あるからこそ。
毎回観終えるとき同様、今回も驚きと満足のため息をつき、席を立ったのでした。

マーク・ストロングさんのインタビュー。


来週はスカイライトを。
これも観た人が興奮して感想を語る作品。気になっていたので、楽しみです。

akikoyanagawa at 21:53|PermalinkComments(0)

2020年07月20日

(ネタバレあり)体感!『機動警察パトレイバー the Movie』

4DXで観てきた〜!
『機動警察パトレイバー the Movie』。

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短期間とはいえ、いろんな地方で観られるようです。
妹も愛媛でこどもたち連れて(amazonプライム+dアニメストアでTVシリーズ見せた上で!)観に行っていました。
以下記事に、上映する映画館リストあり。


動員も多いようで、なんか嬉しい。
昔の映画でも、変わらぬ人気。

「『機動警察パトレイバー the Movie』4DX!公開から3日間、全国56館で興行収入2,600万円、入場者数1万人を突破の大ヒット!」


去年末に、押井守監督さんたちとみんなで、サウンドリニューアル版を大きなスクリーンで観たばかりだったけれど、名作は何度観ても良いですねえ。
オープニングのかっこよさで泣くの何度目だろう。

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機動警察パトレイバーの劇場版、劇音上演(リマスター版)&押井監督伊藤さんたちのトークショー。 最前で観てきた! 当時小学生でビデオで何度も観てきたけど映画館は初めてでした。 1989年にこれが作られたとは改めて凄い。 脚本も画角も間合いも音楽も、全てに意味がありワクワクして。 オープニングだけでもう泣きそうだった。音と映像の躍動感と一体感が大好きなんです。 . あと神田川周りの、古く朽ち果てた街並みを、ひたすら歩き回るシーンの退廃した気配。 OSのブラックボックスを垣間見ようと格闘する、遊馬とシゲさんのテンポ。 「人が悪さをしなければ、機械は正しく動いてくれる」技術者としてまっすぐあろうとする、榊さんと実山さんの会話。 . そして、方舟に乗り込んでからの緊迫感! . セリフはもちろん、次にどの絵が映るかまで、全て覚えているのに、改めて没頭して愉しみました。 . トークショーでは、制作裏話がボロボロと。 松井さんシーンが労力軽減のため生まれたたとはねぇ!あのシーン、今となっては欠かせないキモなだけに、びっくりしました。 . 有楽町の展示も行こう。 来年は、コミックスの表紙など、ゆうきまさみ先生の原画展もあるそうです。 作画はゆうき先生版好きなのでこれもチェックしなくては! . #patlabor #パトレイバー #トークショー #mamoruoshii #movie

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4DXのシートで、レイバー乗っている感覚が楽しめるのも面白かったのですが(アトラクション感!)、

忘れていました、続きを読む

akikoyanagawa at 23:00|PermalinkComments(0)

2019年07月21日

知のハブ、かつ生活を支える場所『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

ニューヨーク公共図書館のドキュメンタリー、観てきました。
『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(Ex Libris: The New York Public Library)
【『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』】

岩波ホールでしばらく上映されていて、反響が大きかったため2019年7月20日(土)から、恵比寿ガーデンシネマで上映がはじまっています。評判を聴いていたのでずっと気になっていました。
(3日前から席の予約ができるのありがたい。
 →【恵比寿ガーデンシネマ】

噂に違わず面白かった!
3時間25分でも全然長く感じませんでした。
 
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ニューヨーク公共図書館とは一館ではなく、マンハッタン各地に広がる、90もの分館を構える組織全体を指します。
 
日本の図書館とは異なり、本を所蔵する場所でありながら、あらゆる人が情報や文化を求めて、ふらりと立ち寄る場でもあることに、まずは驚きました。
児童館や公民館、市民ホールなどの役割も全て担っているのです。

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ニューヨーク公立図書館の資金は、半分はニューヨーク州など公からですが、残りの半分が企業や個人から。半官半民の独立法人です。
 
そのため政治の方針に従うだけではなく、続きを読む

akikoyanagawa at 18:46|PermalinkComments(0)